資本主義という枠組みの中で働くということ

2018年6月9日by kaorisato

先日、鎌倉投信という会社の取締役の方が執筆された、「持続可能な資本主義」という本を読みました。いくつか心に残ったメッセージがあります。

 

・現代の資本主義においては、「フロー」*1 をあらゆる指標の中心に据えているが、今後は「ストック」*2にもっと着目していくべきである
・営利を目的とする企業が売上高や利益を増加させ続けるということは、同時に「ストック」を毀損しているということである
・リーマンショックで顕在化したように、売上高や利益など「フローのみ」に着目する経済は、いずれどこかで歪みが生じる

*1 国の場合はGDP成長率、企業の場合は売上高の伸び率など、現代の世の中において指標として使われているものは、「フロー」に依拠しているものが多い
*2 ストックの具体例としては、人的資産、取引先や顧客からの信頼、地域との繋がり、地球上の資源まで有形無形のものを含む

 

他にも勉強になることがたくさん書いてありましたが、これからまだしばらく人生が続く(と願っている)ので、今後の社会の変革についてぼんやりと思うところを書いてみます。

 

物心ついたときにはバブルが崩壊していた世代

私は30代ですが、物心がついたときにはちょうどバブルが崩壊していました。小学生時代には、もれなく小室ファミリーにはまっていたような世代です。子どものときは景気の良し悪しなど気にすることもありませんでしたが、何となく、実態経済を鼓舞するかのように、今よりパンチのある歌や番組がテレビで流れていたように思います。(今ではほとんど地上波は見なくなってしまいました。)

中高生になっても、政治などには全く関心がない子どもで、毎日プリクラを撮ることばかり考えている平和な学生でした。ただ、「ブッチホン」という言葉はなぜかずっと鮮明に覚えていました。

 

ブッチホンとは・・総理大臣の小渕恵三さんが著名人にかけた電話のことを指し、それがあまりにも唐突でフランクなために電話を受けた相手が当惑したという。小渕さんはこの言葉で1999年度の新語・流行語大賞(年間大賞)を受賞している。(Wikipediaより)なおブッチホンを受けた人物の中に、小室哲哉(2000年1月21日) – 沖縄サミットのテーマソング作曲を依頼 もあったそうです。

 

そんな感じで、幸いにも生活に困窮することはない環境でそのまま大学に進学。そして典型的な日本の大学生(=入学することがゴールに近い)のといった生活を送っていました。

もちろんこれが典型的というのは語弊があるかもしれませんし、学生時代から意義のある活動を行ってきた方もいるというのは十分に承知していますが、一定の割合の大学生が私のように怠惰な時間を過ごしてしまうというのも、この世代の特徴なのかもしれません。

すなわち、内から湧き上がるエネルギーというのは、やはり何らかの原動力が起因となると言わざるを得ないというのが実感としてあります。例えば現代の社会に強い問題を感じていれば、そのエネルギーは学生運動の闘志という形になるかもしれないし、あまりにも困難な環境で育ってきたのであれば、将来に対する野望みたいなものが膨らむかもしれない。ただ、そういう強いエネルギーを持つ人の割合が少ない世代なのかな、というのが肌感覚です。

 

 

金融資本主義を垣間見た社会人時代

就職活動をしていた時はまさにリーマンショック前後の時期で、金融機関のインターンシップにも色々と参加していたのですが、学生の身としては「こんな華やかなでバブリーな世界があるのか」と思っていました。今はなきリーマンブラザーズのインターンシップにも参加しましたが、その後の突然の崩壊を目の当たりにし、少し不思議な感覚を覚えたことも記憶しています。

その後税理士の資格を生かすために外資系の税理士法人に就職しましたが、金融部に所属していたため、多くのクライアントは外資系の金融機関であり、それらの決算や確定申告に携わる中、いわゆる「金融資本主義」を肌で感じました。お金がお金を生み出す仕組み、国際的な投資スキーム、誰も人がいないのに莫大な資金を保有するハコとしてのエンティティ – その是非ではなく、現実としてそういう世界があるのだということを認識するのには、とても良い経験でした。それと同時に、プロフェッショナリズムというものも勉強させてもらった時期でした。

残業が多かったので、その対価を有形無形に消費することで、毎日楽しい日々を送っていました。ただ資本主義という枠組みの中では、どうしても歯車的な存在だったかなと、前述の「持続可能な資本主義」を読む中で感じる部分もあります。ただし、それは自身が学ぶことや成長を感じるうえでの必要なプロセスだということも、全く否定のできないことだと思っています。

 

 

「会社員」という枠組みの外にいる人たちと交流し感じたこと

人生というのは不思議なもので、これまでに足を踏み入れたことのない長野県白馬村という地に、突然住まいを移すことになりました。

白馬村のような人口1万人に満たない田舎には、いわゆる大企業というのは存在しません。宿泊業・飲食店・農業などの自営業で生計をたてている方がほとんどです。あるいは組織の社員と農業の兼業など、複数の仕事を持っている人もとても多くいます。私はこれまで、「会社員」と呼ばれる人ばかりがいる環境の中で生まれ育ってきたので、自営業の方と密に交流するような機会はあまりありませんでした。ところがこちらに住まいを移してから、「会社員」という枠組みの外にいる人たちと交流することがとても増え(というかほとんど)、同時に自分の働き方についても色々と考えるようになっていきました。

また白馬村に来て始めて知ったのは、冬場は驚くほど国際的なリゾート地であるということです。夜の外国人比率は断然六本木に勝っています。おそらく日本の国際的なスキーリゾートという観点では、北海道(ニセコ)の次に来るぐらいかと思いますが、冬に関しては「のんびりした田舎」のイメージが覆される本当に不思議な場所です。投資案件も多く、私が外資系の会社で働いていたときのスキルも、ここでなら税金に困っている人のために多少なりとも生かせるかもしれない・・そう思ったのが開業の背中を押した理由のひとつでした。

多くの外国人と接するなか、彼らの人生を自然体に楽しむ姿勢には、本当に学ぶことばかりです。それと同時に、ビジネスセンスやジャッジの早さなどの仕事面でも新しい刺激を受けることがとても多いです。ピンときたときに行動するというのは、「チャンスの神様は前髪にしかない」という言葉がありますが、あらゆる局面で大事な要素になるのではないかと思っています。

 

また、この小さな田舎の村であっても、資本主義経済という枠組みに組み込まれているというのは間違いありません。投資が回収できるとジャッジされれば、多くの資金の流入があるということです。それと同時に、物々交換といった「目に見えない経済」が並存しているのが、住んでいてとても面白く感じる点です。夏場は、野菜を買うことはほとんどありません!(夕方に家のまわりを歩いていると、お野菜のおすそわけで夕飯がまかなえます。きゅうりの漬物は、もらったものだけで一年分の量を仕込みできます)

 

 

 

場所と時間の制約をなくすこれからの働き方

 

私がそもそも税理士の資格をとったのは、以下のような理由からだったと思います。

・女性なので色々なライフステージの変化が訪れるかもしれないけど、なんらかの形でずっと働き続けていたい
・基本的には組織に属するのが苦手っぽい

少なくとも税理士という資格があれば上記の問題をクリアできるうえ、何か問題を起こさなければ定年もなく、ライフステージに応じて柔軟に働き続けることができる・・ぼんやりとですが、そう思っていたのです。大学時代は時間を持て余していたので、簿記をかじったら数字が結構好きだということに気づき、そのまま税理士試験の勉強をはじめたのでした。

ただ、まさか自分が独立開業するということは夢にも見ていませんでした。たぶん東京にいたのであれば、そのまま税理士法人で働いていたと思います。産休育休をとって、少し女性が働きやすい部署で・・当時はそう考えていました。田舎に住んでみてはじめて、自営業の友達がたくさんでき、独立ということが身近なものに感じられるようになりました。

自分にとって、どのような働き方が向いているのか、あるいはどのような働き方を目指して生きたいか – こういったことをきちんと考えることができる時代になってきていると思います。高度経済成長期とその名残が残る時代には、やはり「大きな会社に所属しているのが総合的に見て一番だよね」という考えがまだ最初にきていたように思いますが、随分と時代は変化したのだと思います。

2020年を目前にして、インターネットの恩恵により、スキルさえあれば時間や場所を問わずできる仕事が増えてきています。また雇用形態についても、いわゆる従来の一般的な雇用契約の概念から離れ、フリーランス(個人事業主)として複数の企業と契約を結ぶような方もかなり増えてきました。平成30年度税制改正にて、基礎控除(人的控除)が拡充され、自営業者の税金優遇措置が(多少)施されたのも、時代の流れを反映しているのでしょう。ただ給与所得者と事業所得者との課税上の不均衡は依然として大きく、広範な範囲における法律面からのサポートが、さらに必要だと感じています。

 

まとめ

売上高や利益など「フローのみ」に着目する経済は、どこかで歪みが生じる – 世の中の多くは営利企業によって成り立っていますが、ようやく「利益の還元先」として、株主以外のステークホルダーを考慮する企業が増えてきた、と上述の著書では述べられています。あるいは従来の雇用形態にとらわれずに働く、すなわち「時間の対価」として給料をもらうのではなく、「スキルの対価」として報酬を受け取るという流れも、未来の働き方の事例のひとつなのだと思います。田舎に住んでみて感じる「目にみえない経済」のポテンシャルを再考する論述も、昨今では多く目にします。

 

幸いにも女性税理士として独立開業する環境に恵まれたことは、場所と時間の制約をなくすこれからの働き方を模索するきっかけであると実感しています。その点、既存の税理士法との兼ね合いなど、解決すべき課題も多く残っているのも現実です。もう少し「未来の働き方」について色々と勉強していきたいと思うと同時に、新しい働き方を強く推進していくプラットフォームを作っていきたいと思っています。

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