外国法人が日本に進出する際の税務上の手続き

2018年4月18日by kaorisato

当事務所では、外国法人のお客様が日本に進出/投資する際のサポートを行っております。
以下で、その概要をまとめてみます。

 

 

外国法人が日本に進出する際、どのような形態を選ぶことができるのでしょうか?

 

外国法人が日本に進出するケースでは、一般的に下記の三種類の形態を選ぶことが想定されます。

A:駐在員事務所
B:外国会社の営業所(支店)
C:内国法人の設立

Aは、日本において「継続的取引に該当しない」範囲で活動を行うためのビークルです。例えば、本国への情報提供や日本の市場調査、あるいは本国の法人のための資産購入といった活動が許容範囲となってきます。

なお、ある製品の日本向けの宣伝活動については継続取引に該当すると解されています。従って、実務的には日本における事務所が収益を伴う活動を行う可能性がある場合は、他のビークルを選択すべきこととなります。

また先にCについて言及すると、こちらは外国法人を株主とする日本の会社であり、出資者が外国法人であること以外は、通常の日本法人の取り扱いと変わりありません。(なお親会社が外国法人である場合、過少資本税制 Thin Capitalization Rule および 過大支払利子税制 Japanese Earnings Stripping Rulesに留意する必要があります)

 

 

外国会社の営業所(支店)を設置するケース

Bの外国会社の営業所とは、外国法人が国内に設けた事業所のことで、外資系法人の日本支店などがこれに当たります。

外国会社が日本において継続取引をしようとする場合には、日本における代表者を定め、外国会社の登記をする必要があります(会817条1項 会818条)。従って、支店形態で日本に進出を予定している外国法人については、まず登記手続きを行うことになります。

留意が必要なのは、支店の登記をしているかどうかと、国内における納税義務が生じるかどうかということは、別問題であるという点です。例えば、外国法人名義で日本に不動産を購入したケースで、賃貸などの運用に関する管理業務は全て国内の不動産会社に委託しているような場合、たとえ支店登記をしていなかったとしても納税義務が生じることとなります。

 

 

日本に拠点を設けるにあたって、日本に住所を有する人が必要でしょうか?

Aの駐在員事務所の場合、必ずしも駐在員が日本に住所を有する必要はありません。ただし在留資格の観点から、基本的には住所を有することとなるのが一般的でしょう。

Bの外国会社の営業所の場合、「日本における代表者」のうち少なくとも1名は、日本に住所を置く必要があります。

一方で、Cの日本で設立された内国法人の場合、代表取締役は日本に住所を有しない者が就任することが可能となっています。従って、日本に住所を有しない者だけで国内でビジネスを行おうとする場合、まず内国法人を設立するという選択肢が上位に挙がってくることと思われます。(その際に、経営管理ビザを取得するパターンが多いでしょう。)

 

外国会社の営業所(日本支店)に係る課税関係

ここでは内国法人を設立するケースは割愛し(通常の内国法人の取り扱いと基本的に同様であるため)、外国会社の営業所(支店)を設置する場合にフォーカスします。外国会社の課税関係については、国内に営業所を設置しているかどうか(日本における登記の有無)に関わらず、国内に「恒久的施設 Permanent Establishment(PE)」を有しているかどうかという点が、納税義務に影響を及ぼします。

 

恒久的施設(PE – Permanent Establishment)とは?

法人税法2条において、その定義があります。

イ 外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所(従前の1号PE)
ロ 外国法人の国内にある建設作業場(従前の2号PE)
ハ 外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者(従前の3号PE)

 

まず、PEを有してる外国会社の課税関係について見てみましょう

PEを有している場合、PEに帰属する所得については、すべて法人税課税の対象となります。(すなわち、PEに帰属する所得であれば、第三国において生じた所得も含まれることとなります。この分ついては、外国税額控除の適用があります。)またPEに帰属しない所得(国内の不動産の譲渡所得や賃貸収入など)は、PE非帰属所得として課税の対象として扱われることとなります。これらの「PE帰属所得」および「PE非帰属所得」は、それぞれ別個の課税標準となり、通算されません。

なお、PEを有する外国の本店から、PEを介さず直接国内に投資して得た投資所得(配当・利子・使用料等)については、源泉徴収で課税関係が終了します(法人税申告の対象外となります) 。例としては、海外の本店が日本支店を介さずに、国内の法人に貸付を行い得た利子所得は、源泉徴収で課税関係が終了することとなります。

 

次に、PEを有していない外国会社のケースを見てみましょう。

国内に恒久的施設を有していない場合(従前の4号外国法人)、PE非帰属所得が課税標準となります。国内の不動産の譲渡所得や賃貸収入については、源泉徴収をされたうえで、法人税確定申告の対象となります。なおこの場合は、地方税の納税義務は生じません。

日本が締結した租税条約において、国内法上のPEと異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける者については、条約上のPEを国内法上のPEとすることが明確化されました(平成30年度税制大綱)。なおPEの論点に関しては、平成26年度税制改正において、国内法における外国法人に対する課税原則について、従来の「総合主義」からOECD 承認アプローチ(Authorised OECD Approach)の考え方に則した「帰属主義」へと見直されています。ただ最近のニュースを見ていると、アップルやアマゾンなどのグローバルIT企業の税負担について米国やEUで物議がかもされており、大きな動向としては、PEという判断基準以外のモノサシで課税が行われていく方向に進むのかな・・と感じています。(ただ実際には、各国間の租税条約の改正を考えると、長い道のりでしょう)

 

外国会社の支店を設置した際の税務上の届出

外国法人の営業所を設置した場合は、下記の税務上の届出を行います。

外国普通法人となった旨の届出書
青色申告の承認申請書

従業員を雇用することになる場合は給与支払事務所の開設届出書、また消費税の還付を受けるようなケースでは、消費税課税事業者選択届出書を提出することもあります。
なお、国内にPEを有しない法人の場合は、固定資産税も含めて、納税管理人の届出を行う必要があることに留意が必要です。

 

まとめ

外国法人の確定申告に際しては、内国法人の別表ではなく、外国法人の別表(1の3)を用いて申告を行います。また財務諸表に関しては、純資産の部が本店勘定となる点が、外国法人特有の論点となります。

実務的には、外国法人の別表や財務諸表に対応していない会計税務ソフトが多いので(というかほとんど対応していない)、そのあたりの機能を追加していって欲しいと心から思っている今日この頃です。ニッチな分野であるなら仕方がないのですが。

私見としては、日本で最初から大きくビジネスを展開したいケースでは、外国法人の営業所を設置するよりも、あらかじめ内国法人を設立してしまう方が、効率が良いのかと思います。(非居住者だけでも法人設立が可能な点や、在留資格取得の観点より。)

ただし単に日本に不動産を購入して、海外に住んでいながら運用したいといっただけの場合は、外国法人がオーナーになるでしょう。その場合、賃貸収入や譲渡収入に関しては外国法人に対する源泉徴収の対象となりますので、適切な専門家のアドバイスを得ることをおすすめ致します。当事務所でも、外国会社のお客様の税務のお手伝いを多く承っております。

ご不明点等は、下記からお気軽にお問い合わせください。